生かすも殺すも茹で方ひとつ   

  そば屋さんの言葉のなかにそのヒントがありそうです。

「そばのでんぷん質の味わいを生かし、そば切りの感触を生かすためにはアルファー化への変化をできるだけ短時間におこなわなくてはならない。それは釜に入れたそばの全部に一度に起こる必要がある。沸騰する湯の勢いはそばを入れても衰えず、湯に落ちるやいなやそばが踊ってたちまちゆだるという状態である」片倉康雄さんの本にあります。

 火が弱すぎるとそばは蒸されて膨らんでしまいます。外側にしっかりした膜ができないので、中に水が侵入するからです。ポイントはそばでんぷんをいかに短時間でアルファー化させるかにあるようです。その為には釜、湯の量、火力について知る必要があります。同じく片倉さんです。「釜の能力をみる為に水の分量を八分目程度にとどめる。最大の火力で沸騰を続ける湯の中に何人前かのそばを入れてみる。それで湯の勢いの静まらぬ範囲がその釜の能力である。一度に入れてよいそばの量は随分限られてくるのであろう。そばを入れると釜の底に沈む状態である。火の勢いに変化はないもののそばが湯の勢いを奪い沸点を割ってしまう。釜に入れて踊る場合は表面がさらっとした状態にゆだるのに対し、釜に沈む時間が長くなると表面がべとついてしまう。そして釜で粘ついたものは、あとでどう処理しようともシャキッとさせることは難しい。そばの味を殺さぬように茹でるには、釜の能力を超える分量のそばを一度に入れないということになる」。

家庭でそばを湯がく場合、鍋の大きさによってゆがくそばの量が制限される。意外と見過ごされてしまうポイントかもしれません。また火力についてですが、工夫として沸騰した鍋に蓋をして火の勢いを補ってやるというのはいい方法かもしれません。蓋をすることで蒸気は逃げることができないないわけですから鍋の内で対流も生まれます。

湯がきの時間ですが、麺の状態をみながら判断するのが一番です。そばでんぷんは熱によって糊化(アルファー化)します。茹であがりを判断するのに職人さんがよく色を見るといいいます。湯がいているうちに一瞬のうちに麺がふわりと膨らんで透きとおってみえてきます。透明感がでてきた瞬間がゆであがりのタイミングになります。

ゆがき時間はそば粉の種類によって違います。でんぷん質の多い更科のようなそば粉の場合、湯練りしますから、すでにそばの部分はアルファー化しています。湯がきの時間は短くていいわけです。また甘皮部分を多く含んだそばタンパク質主体の青菊のようなそば粉の場合は当然長くなります。仮に二八の配合で切りべら23本として、更科で15-20秒、青菊で40-50秒位になります。おおよその目安とお考えください。

 水を差すようですが、びっくり水についてです。そばを沸騰した湯のなかに入れてしばらくすると吹きこぼれそうになり水を差すことになります。水を差す理由はそのことで一時的に湯の温度を下げること、つまり走りすぎたそばの勢いを止めることです。芯まで火をとおすための温度調節になりソラ煮えを防ぎます。意外と知られていないのが、そばによりですが水ではなく湯を差すという工夫があります。釜の温度の回復が早まります。応用できます。

ただし、くれぐれも湯がきすぎは禁物です。湯がきの時間が長くなれば、麺の内部と外部との水分勾配がなくなり、麺がだれたような状態になります。中心部分のでんぷん粒に表面部分の水分が浸透し水分が平均化しのびたそばにります。膨潤した麺の肌は荒れ、せっかくの角もとれてしまいます。おそらく食感のすがすがしさは麺の内部と外部との水分勾配にあります。スパゲティで言うアルデンテとはちょっと芯を残したくらいのちょうどよい茹であがりの状態をいいます。この茹で加減についてうどんでは、茹でたうどんの麺の水分が75%が一番おいしいとされます。水分分布が75%の状態のとき、表面付近では80%、中心部分で40%程度になります。この水分勾配が歯切れのいい腰の立ったおいしいそばになります。

打ち手によりいろんなそばができます。どんなそばなのかを知ることで湯がきの時間はかわります。藤村和夫さんの本に切らす玉とずる玉についての記述があるのでご紹介します。「切らず玉は乾いた粉が混じっているのだからいくら煮ても生の部分が残り、粉っぽく、角がすぐ崩れたりして歯切れの良い、腰の立ったそばには仕上がりません。もみの浅い生も同じで、熱伝導がうまくいかず、良い煮上がりにするには骨が折れます。ずる玉は、うっかりすると釜の中にいるうちからのびたそばになります。こうした生は持ってみるとやわらかく、ぐったりしており、団子にしてみても、艶がなく、手で引っ張ると粘りがないので、やわらかいくせに切れやすいのでわかります。煮上げるてみると空煮えそばになりがちですし、良く煮ると縮れてパーマネントそばになってしまうのがこの手です。

 蕎麦のゆでかた 用意するもの(大きめの鍋、菜箸、ざる、ボール)

1 大きめの鍋でたっぷりの水を沸騰させてください。
 (湯が循環するように炎を鍋の中心からややずらせるのがコツです)

2 そばをパラパラとほぐすようにしながら鍋に入れます。

3 「の」の字を書くように軽く菜箸でかき回します。

4 途中、釜からふきこぼれそうになるので水を差します。(びっくり水)

5 再度ふきこぼれそうになったとき、ガスの火を止め、ざるにすくい上げます。
 (麺により茹で時間30〜50秒は各自調整してください)
 
6 水をたっぷり入れたボールにそばをうつし、水を出しながら荒熱をとります。

7 水を替えて軽く揉むように洗い、ぬめりをとります。

8 氷水のはいったボールに移し、麺を締めます。(夏場)

9 しっかり水を切り、用意したざるに30センチ位上からパラパラとまくようにして
  盛り付けてください。一掴みは一口で食べられる分量です。